第7回 

 さて、第1レースが終わってみると、「今日は奇跡が起こって全レース的中するのではないか」という幻想から、「ああやっぱり何時もの自分だった」という現実に引き戻される。そうしたら急に空腹を覚えたが、そういえば昼食を取っていなかったことに気づく。
 何も忙しいレースとレースの合間に食事などしなくとも、第1レース前に済ませれば良かったのだが、久しぶりの競馬場で興奮していたのかも知れない。とにかく、何か食べるものをと探しに行く。

 お馴染みのホットドッグやチキン、プレッツェルなどもあるが、スープを売っているところがあったので聞いてみると、チキンヌードルかチャウダーがあるという。チャウダーなら具が多くボリュームもたっぷりだし、丁度良いとそれを注文する。クラッカーもたくさん呉れて、それを砕いて入れたら、もう山盛り。舌を火傷しながら熱いのを「食べる」。他に何も食べなくても十分満足できて、これで2ドル75セントだから安い。

 チャウダーを食べていたところは、3階の奥でパドックの上にあたり、座ったままでも少し背伸びすれば見えるところだったので、時々食べるのを休んでは背を伸ばして、第2レースの馬達を見ていた。

 ベルモントパークのパドックは真ん中に木があり、京都競馬場のようなイメージもある。アメリカの場合、パドックは単に馬が周回して騎手が騎乗するところではなく、ここで馬装を行なうことも多い。
 したがってパドックに出て来た時にはどれがどの馬か分からないこともあるし、そのまま暫く周回したりしていることもある。
 パドックに入るところで、係官が馬の上唇をめくり、そこに刻印されている識別番号と登録馬の物理的な確認を行なう。そのあと周回したり、馬装したり、調教師(および馬主)と騎手が打ち合わせたりして、合図があると騎手が乗り、本馬場に向かうわけである。

 馬達が、スタンド下を通って、本馬場に入場するところで、ファンファーレが鳴らされる。本来ファンファーレというのは、そこに集まっている人々に、そこの主役−−王様だとか競馬であれば馬−−が登場して来ることを通知するためのものである。入場行進を行なって、主役である一頭一頭が順番に紹介される。

 日本の地方競馬でもこの入場行進は比較的守られているが、中央競馬では馬優先だか、騎手優先だか分からないが、ほとんど無視して何処かに飛んで行ってしまう。
 相撲などは、土俵に対する敬意を丁寧にあらわし、形式美としても確立しているし、柔道や剣道でも、あるいは甲子園児達が一礼して球場に入退場するのと比べて、何たる違いだろうか。日本というのは、行き過ぎと思われるほどそうしたものに拘るのに、中央競馬では何故そうならないのか、不思議に思う。

 話が逸れてしまったので元に戻そう。この日のベルモントの第2レースは、実は7頭立てのところ1頭取り消して6頭の出走、しかも前日予想した限りかなり堅いレースのはずである。
 それもあって、チャウダーなどを食べながらパドックを見ていたわけだが、結論からいうと1・2着が入れ替わったが、本命・対抗で決まった。でも馬券の方は、 Winが取れず、Quinella は一応人気薄も少し買ったので元割れ。

 そのために、続く3レースでは、ここもやはり6頭立てだったのだが、人気3頭をなんとか2頭に絞りこんで Exacta の裏表だけで的中を狙う。しかし結果は、これまた絵を画いたように、切った人気馬が1着になり、狙った馬達は2・3着という結果に終わった。

 この3レースは、Pick6 のスタートのレースでもあり、前日から色々考えて来たのだが、これであえなく Pick6 の的中も消えてしまった。
 ところで、この Pick6 だが、てっきり1ドル単位で買えると思ったのに、2ドル単位でしか買えず、それで窓口でモタついてしまった。32通りだったので、32ドルのつもりが64ドル、おまけに Pick3 も買ったので総額 80ドル超が最初のレースで終わり。ああ今日は一体幾ら負けるのだろう。

続きはまた来週。