第11回　

　さて、今回からサラトガの話をしていこうと思う。まずは、サラトガの町の位置関係から。

　サラトガはニューヨーク州にある。摩天楼のそびえ建つマンハッタンを中心としたニューヨーク市というのは、実はそのニューヨーク州の南東の外れにあり、ニューヨーク州は、西はナイアガラ、北はカナダとの国境にまで及ぶかなり大きな州である。
　そのニューヨーク州の東側の州境に沿って、１本の大きな川が流れている。それがハドソン川である。サラトガは、そのハドソン川をニューヨーク市から１８０マイル（約２８８ km 、＊下記注）遡ったところにある。

（＊）今回の文章中で距離を敢えてマイル表示にしたのは、アメリカの高速道路の速度制限が時速５５−６５マイルであり、時速６０マイルで走るということは、１マイル１分で走ることになる。
　つまりマイルの表示というのは、ほぼそのまま車での所要時間を表わすのである。したがってドライブ旅行をする時の目安にもなるので、マイルの表示とした。

　それでは、そのハドソン川をニューヨークからサラトガまで辿ってみよう。

　ニューヨーク市はハドソン川の河口にあり、大西洋を挟んで旧大陸との交易と、ハドソン川を使った内陸との輸送の接点にあたり、植民地時代から繁栄した。
　日本人だけでなく、アメリカ人でも案外知らないが、アメリカ合衆国の最初の首都はニューヨーク市である。
　新首都ワシントン市の建設がすぐに決まり、翌年から１０年間、首都はフィラデルフィアに暫定的に移ってしまうので、最初の首都をフィラデルフィアと思っているひとが多いが、ジョージ・ワシントンは、１７８９年ニューヨーク市で宣誓して初代大統領に就任している。

　そのジョージ・ワシントンの名を付けた橋（ George Washington Bridge ）がハドソン川に架かっていて、それをニュージャージー側に渡ると、フォート・リー（リー将軍の砦）市がある。
　これは、南北戦争で南軍を指揮したリー将軍ではなく、独立戦争当時に活躍した将軍である。昔から日本の駐在員などが多く住むが、現在は韓国系の住民もかなり多い。

　そこから、ハドソン川を遡って２０マイル（約３２ km）ほどいくと、川幅が広がって、流れの穏やかなところがある。知らないと少し細長い湖かと思うほどであるが、そこにも１本の橋が架かっている。名前をタッパン・ジー橋（ Tappanzy Zee Bridge ）という。
　大恐慌の時、ニューディール政策で各地で公共事業を起こしたが、これもその一つで、わざわざ川幅の一番広いところに橋を架けて、事業規模を大きくしたのだそうだ。

　このタッパンジーは、高速道路の２８７号線が通っているのだが、それを少し西に向かうと、ニューヨークからサラトガ方面に向かう８７号線にぶつかる。
　私の場合は、実際にはこの８７号線を北に向かってサラトガに行くのであるが、そのインターチェンジから８７号を少し北走ると、アウトレット・モールとして有名な、ウッドベリー・コモンズがある。
　ニューヨークのパックツアーのオプションとして、ここへの買い物ツアーがあるので、ニューヨークの来られた方はご存知の方もあろう。
　有名なブランドも、ほぼ全て揃っている上、靴でも服でも日本人の体形に合う品揃えがあるし、５番街で買い物するよりは当然かなり安い。

　タッパンジーから３０マイル（約４８ｋｍ）ほどハドソン川を遡ると、川が狭くうねっているところがある。
　ここは、かなり以前から要所とされ、要塞も築かれて川の交通を見張っていたという。ウエストポイント（ Westpoint ）と名付けられたその地には今でも陸軍士官学校がある。

　ウエストポイントからさらに４０マイル（６４ｋｍ）北に行くと、キングストンという町がある。
　その郊外、ウッドストック（ Woodstock ）は、あの伝説のロックコンサートが開催されたところである。
　そのウッドストックの周辺から山並が続いているのが、キャッツキル（ Catskill ）と呼ばれる山地で、なかでもハンターマウンテン（ Hunter Mountain ）は、ニューヨーク郊外のスキー場として人気がある。
　この距離であれば、もちろん多くの人が日帰りでスキーに出掛ける。

　そこからさらに６０マイル（９６ｋｍ）北に行くと、ニューヨーク州の州都オルバニー（ Albany ）がある。
　ハドソン川は昔からかなり整備されていて、今の時代でも、かなりの大きさの船はここまで上ってくることが出来る。もちろん、独立戦争当時のことであれば、欧州と行き来していた船が直接ここまで来ることも可能であった。

　オルバニーは、またそのまま西に向かえば、シラキュース（ Syracuse ）・ロチェスター（ Rochester ）という五大湖の一つオンタリオ湖（ Lake Ontario ）の南の町を通って、ナイアガラの入り口の町バッファロー（ Buffalo ）に到る。その距離２９０マイル（４６４ｋｍ）位であろうか。
　逆に東に向かうと、ニューヨークまでとほぼ同じ距離でボストン（ Boston ）に到る。
　ついでにいえば、北に向かっても同じような距離で、カナダのモントリオールに到る。

　つまりオルバニーという町は、こうした主要な町を結んだ交差点にあたり、古くから大変重要な交通の要所であった。そのこともあり、オルバニー郊外サラトガでの独立戦争当時の戦いの勝敗は、その流れを決定づける重要な意味を持っていたのである。

　オルバニー周辺やサラトガの戦いの詳しい話、サラトガ競馬場のあるサラトガ・スプリングスについては次回以降にしておく。