第30回 (特別編)アメリカ東西対抗戦

 今回は、ケンタッキー旅行の話を1回お休みして、3 月 3 日にサンタ・アニタ競馬場で行われる予定の東西対抗戦の話題を書くことにする。

 今回の東西対抗というのが、東のフロリダ州ガルフストリーム競馬場と西のサンタアニタ競馬場のアロウアンス級の馬の交流戦で、普段であればこうした馬たちは、地元からせいぜい周辺の州でしか走らない馬達だが、特別招待でレースをすることになった。
 こうしたアロウアンスでは、レースの総賞金が3万ドルから4万ドルくらいだが、この招待レースは10万ドルで、しかも輸送費その他は競馬場持ちである。
 レースは全て12頭立てで、東西6頭づつ、これを6レース行うという。つまり、今回は36頭がガルフストリ―ム競馬場から、騎手はベイリー Jerry Baileyデイ Pat Day といった超一流6人が遠征する。しかも勝負服は、東軍・西軍という制服だそうだ。

 これだけ聞いて、これが何を意味しているか分かる人があれば、相当なアメリカ競馬通といえるだろう。
 実は現在、ガルフストリーム競馬場とサンタアニタ競馬場のほか5つの小さな競馬場を運営するのはマグナ・トラック The Magna Track という会社で、そのオーナーは、かのフランク・ストロナーク Frank Stronach 氏である。
 オーストリア生れのカナダ人で、黒地に赤でAの文字黄金の矢をあしらった勝負服は、BCクラシックの Awesome Again などで知られている。
 今や北米を代表するオーナーであるだけでなく、Adena Springs の名前で牧場を経営し、また、競馬場経営にも乗り出して、何とか北米競馬の発展をと、各方面に働き掛けている。
 つい先日も、全米の統括団体として鳴り物入りでスタートしながら、その運営を巡って紛糾し、東海岸の殆どの競馬場が脱退して窮地に立っていたNTRAに突然復帰を決め、「NTRAを大リーグに」という構想を訴えている最中である。

 今回のこの東西対抗戦も、ストロナーク氏が、全国レベルの競馬を推進するための一つのアイデアとして考え出したもののようだ。
 重賞級の馬のオーナーであれば、主な州のオーナーズ・ライセンスを持っているし、調教師もライセンスを持っているが、しかし、その下のクラスではなかなかそうはいかないので、どうしても馬の交流も途絶えがちになっている。
 それに対して、仕組みとしてはナショナル・ライセンスを出そうという動きもあって、すでにオーナー達のところには、用紙が配られているが、各州の対応が遅れているので、それほどまだ浸透しているとは言えない状況である。
 従って、実際に馬の交流戦をやって、皆の関心を引こうというのである。賞金も費用も出す、という芸当は、さすがにアメリカの大金持というところだが、そうまでして競馬というものを、それもナショナルレベルの競馬というものを、オーナー・調教師・騎手そしてファンに訴えていこうという、そのアイデア・実行力・アピールする力は、大したものである。

 現在、ガルフストリーム競馬場側は、オーナーや調教師の多くが、新たにカリフォルニアの資格を申請しなければならず、そのために、指紋を取る・取らないで多少揉めているが、何とか開催には漕ぎ付ける模様である。
 これが上手く行けば、続いて3週間ほど後に、今度はガルフストリーム競馬場でシリーズ2回目を実施の方向だそうだ。
 さらにストロナーク氏は、フェアグラウンド競馬場を買収する計画があり、そうした暁には、3場の対抗戦に発展させる構想もあるという。

 ところで、この東西対抗の話はまだほとんど知られていないと思うが、実は私の馬(もちろん共有馬)が、ガルフストリーム競馬場の36頭の中に選ばれたことから、その内容が分かった。
 その馬は Golden Nicolas (1996 b, 父 Gold Legend ・母 Imperial Miss その父 Imperial Falcon )という馬で、昨年ケンタッキーで走って、漸くクレーミングで 1 勝をあげ、その後アロウアンスなどでも、そこそこ走った。
 しかし、なにしろ気の小さい馬で、競りかけられると全く駄目、とにかく気分良く逃げて、そのままなだれ込む、というのが身上の馬で、ケンタッキーのアロウアンスの時には、昨年のケンタッキーダービー2着馬の Aptitude などと一緒に走って、逃がして貰えず、すっかり自信を無くしていた。
 冬になって、ガルフストリームに滞在し、クレーミング・レースで逃げて圧勝すると自信を回復して、続くアロウアンスでも、大逃げから最後しのぎ切って勝ち、目下2連勝中である。
 そのレース振りから36頭に選ばれたようだが、そのクラスの馬が揃ったところで、気分良く逃げられるか大変疑問ではあり、勝算はそれほどあるとは思えないが、折角の機会だから、馬が大丈夫なら、挑戦してみようということになった。
果たして、如何なる次第となるであろうか、機会があればまたご紹介することにしよう。