第3回 韋駄天娘の未来は開けた・・・大井競馬場「東京盃」

 9月27日、大井競馬場「東京盃」は、宇都宮の快速牝馬・ベラミロードの圧勝だった。
 絶好の3番枠から猛烈なダッシュ力、直線さらに加速して牡馬の一流スプリンターを寄せつけなかった。まさしく火の出るような逃げ。
 鞍上・内田利雄騎手は、ゴールイン後スタンド前に引き返して、何度もガッツポーズ。大きな歓声と拍手を浴びた。
 なるほど最近ちょっと例をみない、鮮烈な勝ちっぷりだった。

 東京盃(大井・1200メートル・良・交流GII)

▲ 1:ベラミロード      52 内田利   1分10秒2
… 2:セレクトグリーン    56 後藤       5
○ 3:ゴールドヘッド     58 的場文      1/2
△ 4:カガヤキローマン    55 石崎       3
△ 5:ワシントンカラー    57 河内       1
………………………………………………………………………………
◎ 6:コアレスフィールド   53 佐藤祐
△ 8:オリオンザサンクス   57 早田
… 9:レイズスズラン     55 江田照
…11:アブクマレディー    53 大塚
…15:スーパーナカヤマ    54 武豊
                    (印は本紙当日版・筆者予想)

 ベラミロードの1分10秒2は、15年ぶりのタイレコード。大井競馬場は昭和61年のトゥィンクル開始から、馬場の砂を全面的に入れ替え、時計がおよそ2秒から3秒かかるようになっていた。
 以後、レコードはもちろんタイレコードも出ていない。

 かつてカツアール、サンオーイの時代には、1800m、1分51秒台が基準だったが、現在オープン級は53秒台なら合格ラインとされる。
「雨が降っても締まらない」
「脚抜きが悪い」
「ただし馬の脚元には安全性が高い」。
 広報によれば、純度の高い粒子の細かい砂を、さらに何度も水洗いして使用しているとのこと。いずれにせよ同じダートでも、JRAはもちろん、船橋、川崎あたりとも馬場状態がまったく違う。
 賛否両論。それはさておいて、この1分10秒2は著しい重みがある。驚異的といってもいい。

 ちょっと不思議なことがある。ベラミロードはこれで19戦15勝となったが、実は地元の宇都宮をはじめ、これまで1400未満を走った経験がない。
 デビューの3歳7月、いきなり1400のJRA認定競走を勝ち、以後当地のチャンピオンロードを一直線に進んでいる。
 宇都宮の特殊なコース事情もあるのだが、地方競馬のオープン級は番組がほとんど中〜長距離に限られていること。だからスピード馬という印象はあっても純粋なスプリンターかどうかは不明だった。
 そういえば…と思い出す。昨秋中山の「ユニコーンステークス」。
 ベラミロードは、それこそ脱兎のように直線坂下まで逃げまくり、楽勝の手応えで、しかしあと1ハロンで、あられもなく失速した。単勝勝負の筆者は、「ああああ……」と思ったものだ。
 短ければ短いほど強い、それがここで、ようやくはっきりした。今後ひと息入れるとのコメントだが、11月府中の「根岸ステークス」は当然視野に入るだろう。韋駄天娘の未来は開けた。

 セレクトグリーン、ゴールドヘッドの2着争いは最後までもつれた。早めに動いたゴールドを、セレクトが直線半ばで捕え、しかしゴール前は再び馬体を合わせる叩き合いになった。
 GIフェブラリーS・5着のセレクトは、7か月ぶりでもさすがに道中の反応が鋭い。対してゴールドも、前走(アフター5スター賞快勝)からブリンカー着用、レースで集中力が出てきた。今日は 58キロも最後分が悪かったか。統一Gでも、十分勝ち負けのメドが立った。

 ワシントンカラーは、中団から外々を追い上げたが、基本的に器用さのないタイプ。この馬場にしては速過ぎる時計で、直線差を詰めるにとどまった。
 アブクマレディー、レイズスズラン級では、さすがにこの顔ぶれは家賃が高いか。
 筆者◎のコアレスフィールドは、船橋千 58 秒9(良)の地方レコードを持っている。それでも今日の高レベルでは、力負けとしかいいようがない。7歳秋でややズブさが出てきた感じ。1分12秒2なら、例年の勝ちタイム。6着はまあ善戦というべきだろう。

 武豊騎手は、馬の状態を別にしても、ほとほと大井と相性が悪い。前日、L ・ピンカイ・ Jr を招いて行われた「全日本リーディングジョッキー」でも、2戦して通算ポイントは最下位に終わった。
 ただこの人の偉いところは、ファンに対してのプロ意識である。その夜も、ラチ沿いから握手を求めるファン一人一人にていねいに応じ、いとも爽やかな笑顔をみせていた。何かもう、普通の人ではないのである。地方競馬場に来るたびそう思わされる。

           ☆              ☆

 今週の「ユニコーンステークス」。南関東からは船橋のカミスドリーム(父ステートリードン)が挑戦する。
 デビューから大事に使われ、じわじわ力をつけてきた馬で、クラシックとは無縁ながら、上昇度が魅力だ。前々で粘って粘ってというタイプ。
 前走川崎の「戸塚記念」を圧勝。二千百2分17秒1は、プリエミネンス「関東オークス」の17秒3と較べても、通用の根拠になる。
 鞍上・秋田実騎手は、ベテランながらファイターで、きりっとしたマスクの好漢。好きなジョッキーの一人である。
 このまま秋晴れが続き、乾いたパワー優先の馬場なら、「ワイド」で少し買ってみたい。