歴代イギリス・ダービー馬の名前の意味 (2000-2001) ・最終回

 2000年 Sinndar ( c 父 Grand Lodge 母 Sinntara )

  Sinndar はイラクの山岳地帯の名前らしいという情報があり、調べてみると Sinjar という町や山地もあるが、果たしてこれが Sinndar であるのかどうかははっきりせず、結局今のところ確認出来ないでいる。

 これも試しにヒンズー語辞書で調べてみたら、「オレンジ」となった。しかし、母馬である Sinntara の方も同様に「オレンジ」と出たので、ただ単に音が近いだけだろうと思われる。
 その Sinntara も、流れからすると地名の関係だろうと思われるが、やはり見つかっていない。
  Sinntara の母 Sidama はエチオピアにある地名で、さらにその母 Stoyana もブルガリア方面の地名であることが分かっている。
 なお、Sinntara の父馬 Lashkari はインド系の人名で、おそらく関係者にそのような人物がいたのだろうと推測される。

  Sinndar の父親 Grand Lodge は、グランドロッジとそのままカタカナで書いても通じそうだが、大きな山小屋とでも訳すのだろう。ロッジというのはホテルよりも簡便なイメージで、下宿という意味でも使うが、これはおそらく母の父である Habitat から、棲み家とか、野生的なイメージの住むところを想像したものだから、山小屋が適当と思う。

  Grand Lodge の母 La Papagena はこの流れとは関係なさそうだが、これはモーツァルトの歌劇「魔笛」の登場人物の名前、その母が Magic Flute 「魔法のフルート」という関係である。
「魔笛」とう歌劇は、大衆演劇をそのままオペラにしてしまったような代物で、そうであれば Grand Lodge の「大きな下宿屋」という訳も捨て難いものになってくる。

  2 歳時 2 戦 2 勝、3 歳になって緒戦で頭差の 2 着に敗れたが、これが生涯唯一の敗戦であった。続くダービートライアルにはきっちり勝って 、4 番人気でダービーに向かう。
 ダービー 1 番人気は、当初2000ギニー馬の King's Best であったが、調教のトラブルで回避、代わって Beat Hollow が1番人気になって混戦が予想されていた。

 道中半分を過ぎて、タテナムコーナーに向かっていくところでは、先頭には Best of the Bests と Sakhee が並んでおり、その直後には Wellbeing と Sinndar が続いている。
 直線に入り Sakhee が仕掛けて先頭に立つと、 Best of the Bests は何とか粘ろうとするも付いていけない。
 残り 2 ハロンでは Sinndar が 2 番手に上がり、その後ろでは Beat Hollow がようやくにして Best of the Bests を交すも、前の 2 頭には届きそうもなく、どうやらこの 2 頭の争いとなった。
  Sakhee も中々にしぶとさを見せるも、残り 100 ヤードからの Sinndar の伸びに後れを取り、1 馬身の差で Sinndar が優勝、 Sakhee 2 着、その後 5 馬身遅れて Beat Hollow が 3 着となった。

 ダービー後の Sinndar は、アイルランドダービー、凱旋門などに勝ち通算 8 戦 7 勝で引退しアイルランドで種牡馬となっている。

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 2001年 Galileo( c 父 Sadler's Wells 母 Urban Sea )

  Galileo はイタリアの科学者ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)のことである。

 なぜガリレオの名前がこの馬に付けられたのかは良く分からないが、ガリレオが近代科学に大きな貢献をし、特に天動説を覆す地動説を支持したことから、21 世紀に入って新しい時代がこの馬から生まれることを願ってのものではないかと推測される。
 ちなみに、ダンテやミケランジェロなど、この頃のイタリアの著名人は名字ではなくて、名前の方で呼ばれることが多い。現代で言えば「イチロー」か。なお、ガリレオについてさらにお知りになりたい方は、以下の URL が簡潔で分かりやすい。
 http://galileo.imss.firenze.it/museo/b/egalilg.html

  Galileo の名前は両親とは関係がなさそうだが、簡単に見ておく。
  Sadler's Wells はロンドンの有名な劇場の名前で、その父 Northen Dancer との関係で付けられた名前である。この劇場は 1680 年代にディック・サドラー Dick Sadler が開いたミュージックハウス Musick House が前身で、そこから鉱泉が湧いて、これが評判を集めたことから、「サドラーの井戸」と名前が変わったものだそうだ。詳しくお知りになりたい方は下の URL で。
 http://www.sadlers-wells.com/

  Galileo の母親は Urban Sea で「都会の海」、音楽や本の題など色々調べてみたが、どうも特定の何かではなさそうだ。
  Urban Sea の父親 Miswaki は、スワヒリ語で「歯磨き」のことだそうだ。これは長いこと分からなかったのだが、 Miswaki というのは複数形で、 Mswaki が単数形、それでなかなか検索で引っ掛からなかった。これについては「参考文献」にある「語学研究」のところからご教示頂いた。

  2 歳時1戦1勝、2001 年に入って 4 月の復帰戦に快勝後、ダービートライアルに勝って、エプソムに向かう。2000ギニー勝ち馬 Golan もここまで無敗で来ており、11-4(3.8 倍)の 1 番人気を両者が分け合っていた。

  Mr Combustible と Perfect Sunday が集団を引っ張る格好でレースは流れ、Galileo は内の 5 番手、Golan は Galileo を見るような位置取りで、 Tobougg は後方集団の中にいた。
 坂の頂上からタテナムコナーに下っていくところ、依然として態勢は大きく変わらないが、Galileo は上手く外目に持ち出している。
 直線を向いて Mr Combustible が抜け出しを図るが、Galileo がそれにぴったり付いてくる。
 残り 2 ハロンとなって Galileo が先頭に出て、そのまま 3 身半の差を付けて快勝、2 着は Golan が、最後伸びて来た Tobougg を首差押さえて確保した。

 ダービー後アイルランドダービー、キングジョージと勝つもチャンピオンSで Fantastic Light の 2 着となって初黒星、その後ブリーダーズカップ・クラシックでダートに挑戦したが、中段から伸びず、6 着に敗退した。


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参考文献・資料・検索サイト・辞書
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http://www.onelook.com/
http://www.britannica.com
http://www.infoplease.com
http://www.bibliomania.com
http://www.altavista.com
http://www.dictionary.com

「広辞苑 / 研究社新英和・新和英中辞典」( IC Dictionary TR- 9700 Seiko Instruments 1998)
The Derby Stakes 1780 - 1997( Michael Church, Racing Post1997)
The Bloodhorse(The Bloodhorse)
週刊競馬ブック(株式会社ケイバブック)
「20世紀の種牡馬体系」(早野仁著、競馬通信社 2000)
「サラブレッド血統事典」(山野浩一/吉沢譲治編著、二見書房 1996)
「The Names They Give Them」
(Compiled by J. B. Faulconer ・ Edited by Jim & Suzanne Bolus 、1998)

日本語で同じように馬名をお調べになっている方がいて、「語学研究」として御自身のホームページに掲載されている。メールで教えていただいたこともあるが、特にアラビア語系は私よりも遥かによくお調べになっておられる。
   http://urawa.cool.ne.jp/saitoo/top.htm

  Bloodhorse 誌選定、米国における「20世紀のトップ100サラブレッド」その馬名について(サラブレッド・オリジナル・プロジェクト(森本健)、競馬通信社掲示板等で連載したもの 2000-2001)
  http://www.keiba-tsushin.co.jp/top/top.html