ノートの6:競馬百話(23)

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(45)アメリカのある誤審事件
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 写真制定が実施されるようになってからも、着順審判の誤審事件というものが後をたたない。まったく不思議なようだが、なにもこれは日本ばかりではない。
 最近おきたアメリカのある誤審事件を、次に紹介してみよう。

 本年(1973年)7月23日、ハリウッド・パークの第7レースで、着順審判委員が決勝写真のネガティヴ・フィルムを見まちがい、エルエクストラーノを1着に、ナイトランダーを2着と発表した。
 したがって、馬券の払戻しは、当然これによって行なわれた。

 ところが、後になってポジティヴのプリントをよく見たところ、この着順が逆であったことが判明した。そして競馬場当局およびカリフォルニア州競馬局(というのは州政府の競馬監督機関である)は、これをほっかぶりせずに発表したのである。
 競馬局は賞金の分配を訂正するように命令を出したが、現在の規則では、馬券に関しては、最初に発表した着順が最終的なものであるから、払戻しの変更はあり得ないことを明らかにしたのである。

 こんな場合に、たいていの人は、当たらなかった馬券はすててしまうものだが、ナイトランダーの単勝の馬券を持っているある男が、この取扱いは不当だとして訴訟に持ちこんだが、10月6日現在のところは、まだ結果が出ていない。

 この誤審事件にともない関係者が処罰されたが、これがなかなかきびしいのである。
 まずハリウッド・パーク競馬場自体が、カリフォルニア競馬局によって1万ドルの罰金を課せられた。
 シニア・スチュワードのハロルド・モリンおよびシニア・プレーシング・ジャッジのアート・パワーズは、十四日間の関与停止、アソシエート・スチュワードのレイ・トリメインおよびエーダン・ロアークは、ともに750ドルの罰金、着順審判のデーゲイッド・サミュエルズは500ドル、同じくモートン・リブトンは150ドル、フォートチャート主任技師プライソン・ロジャーズは50ドル。

 これらの処罰は、わが国でいえば、農林省が競馬会に対し制裁を下すようなものである。
 ここで最後まで問題になるのは、ほんとうの一着馬の馬券を持っている人をどうするかであろう。規則だからダメ、ではかたずかないであろう。規則でかたずくなら、わが国の同枠取消の問題でも、かたずくはずなのだから。
 この誤審問題の処置なども、対岸の火災視しないで、研究しておくこともけっしてムダではないであろう。

                     (昭和48年11月22日)


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(46)400万円の関税の継続は必要
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 活馬の輸入が自由化されてから、なん頭の外国産の競走馬が輸入されたかは、はっきりとは知らないが、おそらく20頭くらいではないかと思う。
 最初は、すごい馬が入ってきやしないかと心配だったが、今では、なぜもっと優秀な競走馬がはいってこないかと思うようになった。

 わたしの手元にある、いちばん新しい中央競馬の成績公報の索引(10号)で、ちょっと調べてみたら、12頭の外国産の競走馬がのっている。そのうち1勝した馬はたったの1頭で、3頭の牝馬は1勝もしないで、すでに繁殖にはいっている。
 血統的のことは知らないが、日本の競馬で1勝もできないような馬を、400万円の関税を払ってまで輸入する必要もないだろうという気もする。
 このことは、また別な観点からみれば、わが国の競走馬の水準が相当高くなったことを示すものであろう。

 競走馬に対し、400万円の関税をかけてすら、この程度の馬しか入ってこないことを考えると、もしこの400万円の関税がなくなったならば、どんなに質の悪い馬が、わが国に流れこんでくるかは、想像にあまりあると思う。
 国内は生産過剰だというのに、素質のわるい馬が大量に入ってくることは、これらがやがては繁殖界に入っていくから、わが国の軽種生産のレベル・ダウンに役立った以外のなにものでもない。

 さらに競走馬でなく、繁殖用の受胎の牝馬は、400万円の関税がかからないために、自由化になって以来、1年に300頭ちかくも輸入されている状態である。

 これにも相当素質の悪い牝馬が多いようで、このような状態をみるにみかねてか、生産者の団体からも、空胎の牝馬にも400万円の関税をかけてほしいという陳情が出ているということだ。まことにもっともなことであると思う。

 わが国の軽種生産の現況は、誰でも知っているように、数年前から生産過剰の状態にある。馬の資質の向上のために優秀な馬は必要だが、劣等馬はいかなる意味でも必要ないのである。

 そしてまた、わが国の軽種の値段は賞金が高いために、一流馬は別にして、欧米の諸外国よりもはるかに高いのである。
 だから、400万円の関税が万一撤廃されたならば、オーストラリア、ニュージーランド等からどっと競走馬が入ってきて、ぜい弱なわが国の軽種生産の基盤は、音を立ててくずれていくことは明らかである。
 400万円関税は、ぜひ今後も継続してはしいものだ。

                       (昭和48年11月23日)