第11回 年度代表馬、最初からコンナモノイラナイ・・・

 早くも古い話になりつつあるのだが、「年度代表馬」、その周辺について少し書く。

 ご存知の通りJRAグランプリは、テイエムオペラオー。4歳馬はエアシャカールで、3歳馬はメジロベイリー。牝馬はチアズグレイス、テイエムオーシャン。古馬牝馬はファレノプシス。ダートはウイングアロー。以下書き連ねても仕方ないが、いずれにせよ活字になると「ごもっとも」としかいいようがない。客観的にみて、今年は”争点”というものがほとんどなかった。

 年度代表馬・・・というやつ。
 個人的にいえば最初からコンナモノイラナイ・・・・・、正直そんな感想を持っている。
 関係者、記者が、ヨイショ半分で投票し、一年の自己満足をダメ押しする、ごくつまらない人間界の慣習であると・・・。

 競走馬は、べつだんワケ知り顔の記者のために走っているわけではない。テイエムオペラオーはなるほど、前代未聞の年間G15勝をなしとげた。その”結果”自体が凄いのであり、だから誰が考えてもMVPは当然なのである。しかして、なぜそこで”記者満票”などという蛇足が必要なのか。屋上に屋を架す・・・とは、まさしくこれだと思ってしまう。

 ともあれ「年度代表馬」については、筆者の知る”競馬酒場”などでも、いつしか毎年、けっこう重要なテーマになった。誰かがそれについて口を開くと、さまざまな意見が出る。談論風発。

 もちろん、それで楽しい酒になればいいのだが、だいたい水掛け論というやつで、思いもよらず、しばしば不穏な空気になったりする。
 どうせやるのなら、と思う。

 JRAはまず基準をはっきりさせるべきだろう。表彰馬の資格を明確にするということ。その年実績を作った馬を選ぶのか、あるいは最も強いと思う(将来も含め)馬を選ぶのか。
 たとえば今年の「最優秀3歳馬」などはそうだろう。
 朝日杯を勝ったメジロベイリーと、たんぱ杯勝者のアグネスタキオン。”投票者”の気分はおおむね推察できる。タキオンの能力を上とみながら、最終的に「GIを勝ったんだから・・・」という理由で、ベイリーに1票入れる。
 ”正解”とか、”考え方”が、ハナから決まっているのだから、これは記者の”見識”とは関係ないし、従って投票の意味がない。いらぬ弁解を承知で書けば、筆者は、ベイリーの方が好きである。ある種の”勘”で、アグネスタキオンより数段高く買っているのだけれど。

 選考段階でひとつ笑い話があった。「最優秀父内国産馬」に、テイエムオペラオーが2票入っていた。
 父オペラハウスは日本の馬ではない。たぶんこの投票者は、サンデーサイレンス、トニービン、ブライアンズタイムあたりの名前しか知らないのだと推測する。
 どこの会社の誰かは知る由もない。
 しかし結局、”記者投票”とはその程度のものなのだろう。さらにいえば「3歳牝馬」に、テンシノキセキという馬が2票を得ていたのにも、大きな違和感があった。どこをどう考えると、この馬が”最優秀”になるのだろう。少なくともこれは、較べられないものを較べる、しかし較べざるをえない芸能界のナントカ賞と混同している。
「テンシノキセキの、あの曖昧なレースぶりは、深い女の業を表現していた・・」
とかなんとか。
 しかし競馬は、いやあらゆるスポーツに、人気投票結局のところなじまない。テイエムオペラオーには、たぶん勲章≠ネどいらないだろう。記録が残り、賞金が与えられれば、それで十分。強いてなら、米流の”ポイント制””ボーナス制”の方がよほどすっきりしている。

 弊社・日刊競馬で、柏木集保(大先輩)が自らのコラムで書いていた。
「牝馬限定のエ女王杯を勝っただけのファレノプシスが 161 票。どうして限定条件のつかない日本ランクの G Tを2つ、G Uを3勝したファストフレンドが 53 票なのだろう。主舞台が公営の競馬場のダートだったからなのだろうか。ファレノプシスは少しも悪くないが、エ女王杯しか知らない記者を、全国の競馬ファンは無能とする」

 しかりと思う。さらにいえば、振り返って平成8年、あのホクトベガがやはり「最優秀牝馬」のタイトルをもらっていない。言葉はふさわしくないかもしれないが、当時の彼女には、やはり”暴力的”なまでの強さがあった。正直ファストフレンドは(少なくとも筆者の中で)、インパクトの点でまるで問題にならないとも思う。それだけのホクトベガを無視してきたのだから、この”選考委員会”を、ハナから信頼できるはずもない。勝ったことが大事。あとはお愛想と考えてお開きにしたくなる。
 ウイングアローとの「ダート最優秀馬」争いで敗れたのは、対戦相手を比較されるとどうしようもない。ただそれを較べること自体、さまざま手枷、足枷があって、複雑かつ微妙すぎる、そういう結論になってしまう。

 さて筆者のフィールドである地方競馬。こちらも先日「NAR・地方競馬全国協会」から、栃木・ベラミロードのMVP決定が発表になった。前々から打診もあったし(専門紙協会が全体7票のうち1票を持っているとか)、選考自体には異論はない。
 ベラミロードは昨年9月、大井「東京盃」G Uで、20 年ぶりのタイレコード、いとも鮮烈な逃げ切リを収めている。ただ、続く「根岸 S」はブロードアピールの5着。相手の鬼脚に凄みがありすぎたとしても、これぞ快速という存在感が示せなかった。どこまでが本物なのか、正直決定打を欠いている。
 かつて斎藤空也さんが「競馬通信」のコラムで書いた定義を思い出した。「年度代表馬とは、その年最も働いた馬、日本のリーダーになった馬に与えたいーー」その年とは、エアグルーヴがジャパンカップを2着した年である。

 地方競馬MVPは、筆者の感覚では今年残念ながら「該当馬なし」である。
 なるほど、年頭の「川崎記念」をインテリパワーが勝ち、現実にファストフレンドを退けた。しかしこのインテリパワーを誰も認めない、強いと思わない(レース内容の意味で)のでは話にならない。規約上(慣習上か)、NRAの「年度代表馬」は、あくまで地方所属馬から選ばれることになっているらしい。
 で、「特別賞」を、ファストフレンドに差し上げて納得させた。さてどういうことか。かえってこれはこんがらかる。

 不勉強で恐縮だが、今朝(1月 19 日)の新聞を見て、首をひねることがあった。「ダートクラフィティケイション」とかのフリーハンデで、ドラールアラビアンが、ファストフレンドより1キロだか上にレーティングされていた。ドラールびいきの記者は、突発的に嬉しかったが、冷静には高市調教師はじめ陣営は、これは納得できない、信じがたい結果だろう。実際、帝王賞、東京大賞典を連覇している。ドラールは鼻差とはいえ、帝王賞で及ばず、ノンタイトルの賞金不足で、結局東京大賞典には出走権すらなかった。

 「年度代表馬」も、「フリーハンデ」も、コンナモノイラナイ・・・、というのは、個人的な本音である。
 話がクドくなって申しわけない。ただあえてそれをするのなら、とやはり思う。
 ストレートな実績評価を基準に、感情を入れない選考、レーティングをお願いする。競走馬はやはり、勝ったこと、負けたこと、その記録が至上だろう。そこに”人間の思惑”がからむと、たぶん現場のホースマン、しなくてもいいい気苦労、迷いが出てくるのは、これは人間だから当然でもないだろうか。